世界初のCD-ROMドライブ標準搭載&80386 32bit CPU採用という華々しいデビューを飾った富士通のパソコン「FM TOWNS」が発表された1989年2月28日から今日で36周年を迎えた。
世間ではモンスターハンター ワイルズの発売で大忙しだし、俺自身特に今日のために何か用意しているわけでもなくTwitterのとあるつぶやきで「ああ、今日ってそういう日か」と思い出した程度ではあるんだけど。今でもユーザー活動が活発なMSXやX68000と比べるといささか寂しい感じもするが、正直去年の段階でフリーゲームがそのまま遊べる互換OSが開発されたとかいう大きな話題と思うようなものを出てるんだけどそれでもなおそういうものが出ていたとは知らなかったという元TOWNSユーザーが多そうな印象で、わざわざ36周年記念に何か作ったところで反応なさそうなのが目に見えてるんでやる気全く起きないんですね。
と何の話題もなくここで話を終わらせるのももったいないので、FM TOWNSエミュレータ「津軽」v20250217から実装されたスキャンライン表示オプションの紹介。

GUI版津軽では起動ウィンドウ下側にある「Scanline Effect (Only 15khz Screen)」にチェックを入れれば有効化される。
当時の表示デバイスであるブラウン管は蛍光面に電子ビームを照射し、その残光を人間が見るというものだが、この電子ビームから照射される横一列文の線がスキャンライン(走査線)という。当時のブラウン管はこの走査線が525本なのに対してゲーム画面は縦224~240ドットなのでちょうど縦方向のドットとドットに隙間が空いたような表示になり、これそのものをスキャンラインと言う表現となり、発色した点の光がその隙間に僅かに洩れるような感じになるので俗に世間で言われるブラウン管の滲みとなる(RGB接続ではない家庭用ゲーム機でコンポジット接続によって映像入力の段階で歪んだ画質になってるのは別の話)。
通常なら描いた物とは差異がある画像を表示するのはナンセンスと思われるかもしれないが、当時のドット絵って色数や解像度が少なく、表示デバイスがブラウン管しかなく必ずこのような表示になるのでスキャンライン表示を前提に描いたものとは別に自動的に中間色のようなものが出てくることを期待してデザインしている可能性がある。
また当時の思い出に浸るという面でも、昔見た映像をできる限り再現するためにも、液晶によるクッキリハッキリなままの表示じゃなくブラウン管の映像を再現するほうがよい。
ただ個人的な好みというのもあるけど、やっぱりドットクッキリハッキリ表示が好きな自分には四角くてもいいからそのまま表示してもらいたい。
様々なエミュレータではシェーダーでかなりそれっぽくブラウン管の表示を再現(蛍光面の湾曲表示や、一つ一つドットというよりちゃんとやや丸い光源のような表示になる)しているものがあるが、「津軽」のスキャンライン表示はかなり古典的な方法を取っている。
通常240pの15khzモードの画面では縦480ドットにする際に二倍にしているだけで奇数偶数列で同じドットだが、スキャンライン表示をオンにすると偶数列の各RGBを右3bitシフトした後に4.7という値で乗算して戻すというもの。FM TOWNSのスプライト画面で使われる32768色モードは各RGB5bitでそれをフルカラー(各RGB8bit)にする際に左3bitシフト(+下位3bit AND)しているので右3bitシフトはそれを元の5bit深度に戻す目的だが、4.7というマジックナンバーはシフトした状態でこれで乗算することで隙間に洩れた光の色合い感を出すため元よりやや暗めのRGB(パーセンテージ的には元より約56.5%)にしつつ実色で使われているRGB値とは絶対に重複しない数値が出てくるようになっている。


各RGB値とスキャンライン値を32階調でそれぞれどの数値が出てくるか確認するサンプル。それぞれで重複していないことが確認できる。
まあ無駄知識はともかくスキャンライン表示のオンオフで画面比較
比較にはフリーゲームの「ALLTYNEX」、市販ゲームの「スプラッターハウス」「スーパーストリートファイター2」を使用。スプラッターハウスとスパ2についてはゲーム内オプションから画面モードを切り替えて15khz画面にしている。
- ALLTYNEX
オフ(デフォルト)

オン(スキャンライン有効)

オフ(デフォルト)

オン(スキャンライン有効)

オフ(デフォルト)

オン(スキャンライン有効)

本物のブラウン管のスキャンラインとは別物のはずなんだが、結構それっぽい、静止画ではわかりにくいかもしれないが、実際に動いている映像だと思い出の中にある純正FM TOWNSモニター「FMT-DP531」で見た15khz画面の雰囲気そのままだ。ノスタルジーに浸れるという面では十分すぎる効果。
しかも、自分好みのドットクッキリのまま、若干暗い印象になるとはいえ中間色を入れて縦解像度と同時発色数を倍増させる効果も発揮できている。単に昔を思い出すだけでなく利便性面でも有効。
この手のスキャンライン表示設定って結局オフにすることが多いが、これなら常駐していても問題にならなそうだ。